2006年2月26日日曜日

〔再録〕持田叙子「おうちを、楽しく」(三田文学)……目からウロコの荷風論


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余丁町散人(橋本尚幸)の隠居小屋 - Blog

持田叙子「おうちを、楽しく」(三田文学)……目からウロコの荷風論



『朝寝の荷風』で荷風ファンを 驚倒させた持田叙子がまたまた三塁打!「三田文学」冬季号に掲載されている彼女の荷風論は、読むべし!


意訳的抜粋:
  1. 永井荷風は、まず歩く人というイメージだが、持田叙子にとっては、家の中の人、というイメージ。欄干にもたれて黄昏 時にぼんやり外を眺めるオトコ。ひたすらお昼寝をするオトコの姿も書いている。だいたいこんな時間に男の人が家にいるのは珍しいのに。
  2. ある意味マイホーム主義の人としての荷風を浮き彫りにしたい。
  3. 荷風のエッセイはよく読むと、一種の住宅論であるものも多い。
  4. 荷風文学の一つの大切なテーマは、追憶。彼の追憶の多くが、家の中の無為のたたずまいの中から紡ぎ出されている。
  5. 荷風文学の基盤は<家>にある。
  6. 荷風の批判精神も、家の中という<ウチ>から、社会という<ソト>へと発信される。
  7. 荷風の家事は、義務とか仕事ではなく、楽しみ。ここが幸田露伴と違うところ。
  8. 荷風にとっての住まいの原点は、小石川の生家・余丁町の家を核とする。しかし洋風建築への関心はかなり高く、結局は シンプルな英国風の洋館(偏奇館)をわが家と定める。これは偶然ではない。偏奇館は『あめりか物語』の荷風の永遠の少女・ロザリンが住んでいたスタット ン・アイランドの田舎風の家なのだ!
  9. ロザリンの住む米国ニューイングランド経由英国につながる。荷風の住宅思想には、フランスよりアメリカ、さらに英国 の影響が絶大なのだ!
  10. 荷風は英国の近代装飾美術の改革者で社会運動家であったウイリアム・モリスにつながる。モリスを最初に日本に紹介し たのは、工芸家の富本健吉だが、ほぼ同じ時期的に荷風が随筆「妾宅」の中で、その社会主義的な思想面まで詳しく触れている。明らかに何らかのモリス体験が アメリカ留学中にあった。絶対荷風はアメリカでモリスを原文で読んでいた。
  11. 荷風とモリスには数々の共通点が見られる(数々と列挙)。「妾宅」ばかりでなくあの有名な幸徳秋水の囚人馬車を目撃 することで自分の芸術のスタンスを転校させたという随筆「花火」もそういう背景で読まねばならない。モリスは幸徳秋水達の運動にも影響を与えたのだ(実 証)。
  12. 荷風は最後までイギリスの田園風の粗末な家である偏奇館を一番愛した。今日からすぐにでも私たちが真似できそうなス ウィート・ホームであることが魅力的。始めてみますか……。

荷風にはフランスの影響よりも、アメリカの影響が強く見られるというの は、知られていることだが、英国のウイリアム・モリスとの関係を指摘したのは持田叙子が最初だろう。荷風の江戸趣味もここから説明できる。また荷風の「永 遠の少女」がロザリンであったことは、散人も直感的に確信している。その通りだと思う。この荷風の精神的支柱であった<家>偏奇館が東京大空襲で燃え尽き たことが、荷風の燃え尽きにつながったとする川本三郎の説も、持田叙子を読むことで補強される。

とにかくこの人の文章は面白いから、おすすめ。

参考:

ウイリアム・モリス

Posted: Sun - February 26, 2006 at 06:42 PM   Letter from Yochomachi   永井荷風      Comments (1)  

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